「ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの戦い」 (L.サスキンド:日経BP;2009年10月)
2010-10-18



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 一度読んだだけでは理解できないところがたくさんあります.でも,読んだ瞬間には分かった気にさせてくれる本です.

 ブラックホールに関する論争は,この本によると1983年に始まりました.この戦争の経過を縦糸にして現代物理学の最先端の話題が展開されます.ブラックホールに関する論争では,「物質としてのビットにびっしりと覆われた境界面である地平線と,単なる帰還不能点としての地平線が明らかに矛盾するということ」が焦点となります.
 その前提として,相補性,「重力の影響と加速の影響には全く違いがない」という等価原理,帰還不能点であるブラックホールの地平線,時空の幾何学.プランク定数,不確定性原理,量子ゆらぎ,エントロピー,「あらゆる情報は空間の領域の境界面にある」とする ホログラフィック原理,ひも理論の説明がされます.この説明の中で,ブラックホールに関する論点が次第に鮮明になっていきます.

 それにしても,これだけの内容を,例えを使って巧みに説明できるというのは驚きです.著者の現代物理学に対する理解の深さが分かります.それと,論争の経過が述べられていますが,誰に対しても暖かい,相手を尊重する言葉から始まっているのが気持ちよい.

 原題は,“ The Black Hole War  My Battle with Stephen Hawking to make the World Safe for Quantum Mechanics ” です.この副題の中に,サスキンドがこの戦争を戦った目的が表されています. 

[地質技術者のつぶやき]

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